第27次地方制度調査会最終答申に対する見解
         2003年11月25日   日本自治体労働組合総連合
 
 11月13日、第27次地方制度調査会は総会を開き、最終答申「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」を示した。これは現在強力に推し進められている市町村合併について、不当にもさらに進めることになり、合併特例法の財政特例措置終了後の地方自治制度・合併推進のあり方についての政府の考え方を提示し、現在の合併をいっそう推し進めるという意味で、自治労連として「押し付け合併反対」の立場でその行方を注視してきた。発表された最終答申は、地方自治にとって重大な問題をはらんでいると考え、ここに見解を発表する。

1 現行合併特例法期限後の基礎的自治体 ―憲法違反の自治権取り上げは、許されない―

(1) 現行合併特例法期限後の合併推進の手法
まず最終答申は、「平成17年4月以降の合併推進の手法」として合併を進めていく市町村の目安について、おおむね人口1万人を提示した。この「目標」をもとに、都道府県知事は市町村合併の基本構想を策定し、合併協議会の設置や合併の勧告、あっせんを行い、その際合併協議会の設置には住民投票を求めることができるとしている。
 これらの施策の中で、17年度以降の合併の対象である「なお合併を行うことが期待される市町村」は、当該市町村自身が望むことではなく、都道府県が判断するとされており、市町村の自治権を侵すものである。これはまさに政府・総務省の強制合併の執行者として強権的な役割を担わせるものであり、地方分権一括法で都道府県と市町村は対等平等とした理念を踏みにじり、まさに都道府県の「半国家化」を推進するものと言わざるを得ない。
 事実、13日の総会では、「全国町村会の山本会長は『人口が少なくなったら、もうお前の村は生きる資格がないということか』と反発、石井岡山県知事も『県と市町村は対等なのに(県が市町村に合併を勧告するのは)その趣旨に反する』と批判した」(朝日)と報道されている。地方自治法上対等とされる知事が市町村長に合併の勧告が出すというのは、これまでの地方分権議論を覆すものである。都道府県知事は、決して勧告・あっせんすべきでないし、それは強制されてはならない。
 住民投票についても、都道府県知事が合併協議会を設置するときのみ請求できることを検討するというのは、本来中立であるべき住民投票制度をゆがめるものである。
 それと同時に調査会の中間報告の中で意見として出されていた「法律上これを示すべき」ということが明記されなかったことについては、これまでの運動の反映である。しかしながら都道府県知事の勧告などによる「人口の目標」が出たことで、都道府県知事はそれに基づいて合併についての不当にも勧告・あっせんを強いられることになる。
 根拠のない目安の1万人という数字だけを理由に合併を強いることは許されないことであり、この目安を改正合併特例法に明示することはもってのほかである。

(2) 勧告・あっせん後の方策

 都道府県知事の勧告・あっせん等によっても合併が困難な場合、@合併を希望しても周辺市町村が合併しない場合、当該市町村の申請により都道府県が関わる手続きで合併を行う新たな仕組みを検討する、A基礎的自治体のみによって構成される広域連合制度の充実等の広域連携の方策により対応することを検討する、Bそれでも残る小規模町村は、窓口サービスなどだけを行う「特例的団体」として存続させることを検討する、という筋道を示している。
 これらの施策は、憲法に明記される「地方自治の本旨」に反して住民の自主的な判断を阻害し、強制合併を推進し、町村つぶしを露骨に進めるテコとなるもので、地方自治にたずさわるものとして許しがたいものである。
 「合併を希望しても周辺市町村が合併しない場合、当該市町村の申請により道府県が関わる手続きで合併を行う新たな仕組みを検討する」ということは、都道府県が「周辺市町村」の自治権を侵すことである。
 これらはまさに政府・総務省の強制合併の執行者として強権的な役割を担わせるものであり、地方分権一括法で都道府県と市町村は対等平等とした理念を踏みにじり、まさに都道府県の「半国家化」を推進するものであり認められない。

(3) 自治を取り上げる「特例的団体」

 それでもなお合併しない町村について、広域連合の利用や町村会が提案した「市町村連合」を認める反面、「特例的団体」とすることを検討するとしている。「特例的団体」は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める(憲法92条)」や、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有する(憲法94条)」と規定した憲法違反であり、「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの」とする地方自治法にも反するもので、断じて認められない。

(4) 町村つぶしのねらい

 合併を進めて町村つぶしをすることについて、「分権の受け皿のため」と「財政効率」ということが文面から推定される。つまり「基礎的自治体は、住民にもっとも身近な行政主体として、これまで以上に自立性の高い行政主体となることが必要」であり、そのために「規模・能力はさらに充実強化する」として、小さい町村は、分権改革によって事務権限を移譲するには行財政能力がないと決め付けている。また「市町村の規模等に対応して行われてきた各種の財政措置等についても見直しを図ることが避けられない」という表現に見られるとおり、小さい町村は財政効率が悪いとしてこの未曾有の財政危機の折に合併すべきということになる。
 「分権の受け皿のため」についていえば、地方分権改革以来、事務権限の移譲は一定の要件に基づいて行われてきた。それを「地方分権の担い手にふさわしい行財政基盤を有することができる基礎的自治体」がにわかになぜ必要なのか理解できない。また従来の事務においても、消防、清掃、福祉施設、介護保険などの一部事務組合、広域連合などによって進められてきた広域行政をどう評価するのか、それではではなぜだめで合併なのかをきちんと説明していない。
 もうひとつは「財政効率」の問題であるが、総務省資料を見ても民生費、土木費など人口1万人以下の町村は2万から50万までの自治体よりはコストが大きいが、50万以上の自治体とは遜色ないという事実がある。これを理由に、小さいほうの「自主的な合併についての目標」のみを提示し、大きい方を提示しないのは、どう考えても「最初に小さい町村つぶしありき」であるといえる。

2 地域自治組織 ―合併推進の道具としての地域自治組織は認められない―

 最終答申は、地域自治組織について、法人格を持たない行政区タイプを一般的制度とし、法人格を持つ特別地方公共団体タイプは、市町村合併において「直ちに合併が困難」な場合に限り、期限を定めて旧市町村単位に限定的に設置するとした。
 そもそも公選制でない組織は「自治体」とはいえない。
 またより実効のある特別地方公共団体タイプを合併目的に限定し、期限を定めたことは、合併推進の道具としてこれを利用しているものである。それは必要な大都市における自治をめざす制度とはならず、中間報告で「分権型社会においては、地域において自己決定と自己責任の観点から、住民自治が重視されなければならない」として「地域自治組織を任意に設置することができる」としたことから大きく後退している。これでは本文で述べられたように、「地域自治組織に旧市町村の名称を冠することによって、合併前の名称を」永続的に残すことにはならない。
 また「基礎的自治体の判断」によって「地域自治組織」が設置できるということは、編入される自治体や「地域自治組織」をつくりたいとする地域の意思を尊重する制度とはならない。
 最終答申で示された「地域自治組織」は、これまでの積極的な側面すらかなぐり捨てる、いわば合併推進の道具というべきものであり認めることはできない。

3 都道府県のあり方・合併、道州制
 ―自治体としての都道府県を解体し、府県の「半国家化」再編は認められない―

(1) 都道府県合併

 このことについては、市町村合併の強制的な推進で基礎自治体を“都市”並みに強化するとの立場にたって、@都道府県の市町村への支援機能は縮小し広域機能に特化させ、A国から都道府県への権限移譲を進めると述べているが、それは府県を廃止し道州制を導入することを前提にしており、しかも「条例による事務処理の特例」による県の事務権限の基礎自治体への移譲(配分)については、基礎自治体自らの判断により積極的に求めることができることとし、この申し出でを受けたとき知事は遅滞なくその基礎自治体の長と協議しなければならないにした。この関係は国と都道府県との関係では認めていない。
 また、都道府県合併については、憲法95条の規定(特別法でその地域に係る問題は住民投票を行う)に反して都道府県議会と国会の議決で決定できる制度をつくるとしている。これに代わる住民投票制度の提言はなく、「その地域・地方の未来は住民が決める」という主権在民の原則を無視するものである。

(2) 道州制

 道州制については「単なる都道府県の合併とか国からの権限移譲といった次元にとどまらない大きな変革であり、国民的な意識の動向を見ながら次期調査会で議論を進める」としたが、答申では@現在の都道府県を廃止し道又は州を置く、A道州制の導入に伴い国の役割は重点化し多くの権限を地方に移譲する、B道州の長と議会の議員は公選とする、C道州の区域は原則として現在の都道府県の区域を越える広域的な単位にするとの考え方を示し、本格審議する前に制度の根幹にかかわる重要な課題を先行して結論付けている。これは民主的、国民的な議論を否定するものである。
 広域的なブロックによる道州制の設置は、財界の要求に呼応して、そこに公的な権限、財政を集中し、地域・都市再生、多国籍化した大企業への支援、公共投資の再編などを更に推進するものである。道州に公選の長と議会を置くとしたことは、この間の分権の流れを反映したものであるが、検討事項として「それぞれ住民の直接公選による二元代表制であることでよいのか」としている。道州制のねらいは明確であり、住民自治の発展を意図したものでないことは明らかである。地方自治の本旨と照らしても、地方自治体とはいいがたいものである。  
 このように答申は、戦後、都道府県が完全自治体になる中で市町村と共同で、自治と暮らし、福祉を発展させてきた歴史の歯車を逆転させ、市町村の意思を踏みにじって上から合併を押し付ける強権的な執行者に位置づけた。地方制度調査会で発言した岡山県知事だけでなく、その後も「県に上位団体のようにお先棒を担がせて合併を進めさせるのはおかしい」(片山鳥取県知事)、「県は市町村をサポートする機関、人口1万人の考えは短絡的だ。私は強制するつもりはない」(寺田秋田県知事)、「県がああしろこうしろという形は失礼な話だ」(三村青森県知事)、「市町村と対等、協力関係にある県が合併構想を策定し、あっせん、勧告により進めることは適当でない」(井戸兵庫県知事)などと次々に批判の声が上がっている。
 また自治体としての都道府県の役割機能を形骸化させるだけではなく、その廃止を本格議論なしに一方的に決めるなど、到底容認できるものではない。しかも政府は、現在、地方自治法の一部改正による指定管理者制度や地方独立行政法人制度の導入など、都道府県がこれまで担い発展させてきた業務の市場開放、アウトソーシングを徹底し、かつ基礎自治体のさらなる大規模化を進め、都道府県自治とその役割・機能の形骸化をはかっている。今回の答申は、これらの動きと連動している。
 この最終答申は、住民自治と団体自治から成り立つ「地方自治の本旨」を踏みにじるものである。市町村合併の推進はその区域の広域化をもたらし、地方自治を住民から遠いものにしてしまう。都道府県制から道州制への移行も同様である。また国から独立した平等な地方自治団体として市町村と都道府県が存在するが、一方の都道府県に国の意を受けたかたちで市町村合併を推進させることは、団体自治に反することである。
 この最終答申が実施されれば、地方自治が形骸することは明らかであり、市町村の合併を通じて広大な面積を持つ区域の荒廃、中山間地の疲弊は、火を見るよりも明らかである。
自治労連は、日本国憲法に規定する「地方自治の本旨」を踏みにじる政府・財界による小規模自治体つぶし・市町村合併の強引な押しつけについて、町村会をはじめ自治の発展を願う広範な人たちと共同を拡げ、連携してたたかうものである。また現在の合併特例法における合併についても最終段階に入っており、従来の押し付け合併反対の方針を掲げて大きな共同のもとでたたかう。そして都道府県の「半国家化」、道州制導入の野望を許さず、制度政策要求を対置し、運動を強めるものである。
 当面は、この答申を受けて来年の通常国会に提案される法改正に、こうした制度改悪、とくに一万人未満の目安を法令に明記することに断固反対する。そのために職場、地域から全力で運動を強めていくものである。
                                    以 上