世界各地の紛争処理に携わってきた伊勢ア賢治東京外国語大学教授は四月三日、連合通信社主催の情報懇話会で「国際協力は九条の心で」をテーマに講演した。アフガニスタンでの紛争処理の経験を振り返りながら、憲法の非戦主義の意義などを語った。 ●武装解除を指揮 　私は憲法第九条は変えてはならない、という立場です。現場での経験から、九条を守った方が得だと思っています。 　〇三年、タリバン政権崩壊後のアフガニスタンに日本政府の特別代表として派遣されました。 　アフガンにはもともと九つの軍閥があり、お互いに争っていました。米国が〇一年、テロ組織アルカイダとそれをかくまうタリバン政権を制圧。この時に軍閥は「北部同盟」として一つにまとまりました。 　米国はアフガンを二度とテロの温床にさせないため、親米的な統一国家をつくろうとしました。ところが、軍閥同士が再び争い始めたため、「軍閥をまとめない限り統一国家はつくれない」と考え、日本を含む各国がこれに協力しました。 　治安回復には単一の国家建設、単一の警察設立、単一の司法制度の確立、軍閥の資金源である麻薬の撲滅、軍閥の武装解除が必要でした。日本は武装解除を担当することになり、その指揮のため私が派遣されたのです。 ●日本人への信頼 　武装解除の方法は、軍閥のところに行き、どんな武器があるかを調査、その上で少しずつさし出してもらうというものでした。 　相手の信頼をかちとることが大事で、特に争っている二つの軍閥に武装解除を求める時は、両方に同じ時に同じ数の武器を出してもらうようにしました。 　戦車や大砲など重火器を本気で回収することが武装解除のかなめです。重火器は軍閥の力の象徴。大きいので数を特定でき、隠すのは容易ではありません。回収した武器は国軍で再利用しました。再利用することで、一般市民に「統一国家の時代」をアピールする政治的効果があったのです。国民の信頼が高まり選挙もできました。 　現在、重火器の武装解除は九九％まで終わりました。銃など小火器が残っているので完全に平和になったわけではありませんが、大量破壊を伴うような紛争は起きないと思います。 　武装解除が成功したのは非戦主義の日本がやったからにほかなりません。私は軍閥の人に「日本人だから信じる」と言われました。彼らは「米国人なら信じない」とも言っていました。 ●紛争介入は外交で 　軍事的なものに、非軍事的にかかわることが大事です。軍事力で平和はつくれませんが、軍事を否定するだけでも平和はつくれません。軍事を直視した上で、平和をつくるためには何が必要かを考えるべきです。 　今、憲法九条改正が議論されていますが、護憲・改憲の立場にかかわらず忘れてはならないのは、国際紛争への直接介入措置は武力でなく、外交であるということです。武力介入は途上国のやること。日本はそれをめざすのかどうか。 　民主国家の軍事組織は文民統治（シビリアン・コントロール）が必要です。軍隊というものはプロの殺人集団だからです。日本には海外で活動する自衛隊を統治する能力があるのでしょうか。 　非戦主義は究極の防衛力になりうるのかという問題もあります。日本が九条を捨てると、ロスが大きいと思います。非戦主義を理解しない相手がいるのも事実ですが、それにどう対応するのかを考えることが必要なのです。（連合通信）
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