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2015年 5月26日

 レポート/命の格差は見過ごせない・下
山梨を訪ねて

患者を遠ざける医療改革法案

 貧困によって受診を受けられず亡くなってしまう「手遅れ死亡事例」。早急な対策が求められるにもかかわらず、安倍政権は逆方向の政策を提起している。患者に負担増を強いる「医療保険制度改革法案」の今国会提案だ。このことによって患者は治療から一層遠ざけられることになると危惧される。

▼自己負担は増える一方

 法案では65歳未満の患者に対して入院中の食事代が現行の260円から460円に引き上げられる。食事代の自己負担は1カ月入院したケースで1万8000円の値上げ。自己負担増によって入院をためらい、病状を悪化させる患者の増加が懸念される。

 山梨民医連の加藤昌子医師は「政府は入院治療と在宅治療との公平化というが、食事も入院時の治療の一環だ」と指摘。治療としての食事を軽視する流れを批判している。

 さらに、「紹介状なしで大病院を受診した際の定額負担額増」や「75歳以上の高齢者の保険料『特別軽減』の廃止」など、自己負担メニューが目白押し。法案附則には、今後一層の患者負担増を検討することも規定されている。

 ソーシャルワーカーの須田かおりさんは「現在でも、治療費が払えずに治療を中断する患者さんがいる。高額になった医療費が原因で受診を見送れば、本当に必要な治療にたどり着けず、手遅れとなるケースがさらに増える」と心配する。

▼患者のための制度こそ

 衆議院での法案審議は参考人質疑も含めてもわずか22時間足らずだった。参院審議もこのペースで進むなら、明らかに議論不足だ。

 そもそも政府は法案を作成する段階で医療現場の声をまともに聞いたのだろうか。現場で患者と向き合う医師、ソーシャルワーカーらは「何が問題で、何を改善すべきなのか。現場の意見を踏まえて制度を設計しなければ本当の意味の社会保障にはならない」と訴えている。

〈取材メモ〉

 取材を通じて、貧困に陥った人達に対する理不尽な風当たりの強さを実感し、憤りを感じた。

 一方で生活困窮に陥ってもなんとか命をつなぐ手立て(無料低額診療制度)があることも知った。これは、社会福祉法で定められた第二種社会福祉事業の一つで、低所得者などに医療機関が無料か低額な料金で診察を行う仕組み。全国で500以上の病院が行っており、「地域名・無料低額診療」でインターネット検索すれば病院名を調べることができる。

 病院に申し出た後は担当ソーシャルワーカーが生活の状況を聞き、給与明細、年金の通知書、預金通帳などを見て適用できるかどうか判断することになる。無料低額診療はあくまで生活が改善するまでの一時的な措置で、病院によって異なるが、適用期間は1カ月から長くて半年あるいは一年以内。その間にソーシャルワーカーが生活保護やその他の制度の活用などで、生活改善の援助を行う。

 山梨県内ではラジオCMで無料低額診療が紹介されており、受診につながったケースもあるという。たとえ困窮に陥ったとしても早期に治療を受け、健康を取り戻すことのできる環境の充実こそが命の格差拡大を食い止めるのだと感じた。(記者・長谷川久美)(連合通信) 

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