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2013年10月29日

  建設業の救世主になるか?
東京五輪開催を考える

専門家は「復興の足かせ」懸念

 2020年の東京五輪が決まった。経済効果ばかりに注目が集まるが、果たしてそれでいいのだろうか。暮らしの安全を支える建設業の面から考える。

▲儲からない中小建設業

 「大手ゼネコンにはプラスになると思う」

 東京五輪の招致が決まった直後、疲へいする建設業にとって朗報かとの記者の問いに、NPO法人建設政策研究所副理事長の辻村定次さんは即座にこう答えた。同研究所は、建設関係の団体、個人会員に支えられている研究機関である。

 五輪招致決定により、直接投資としてスタジアム建設1338億円をはじめ、競技会場整備に4554億円が財政投入されているという。さらに、関連事業として首都高速道路の整備や都市再開発事業などが1兆円規模で投資されるともいわれる。東京圏では、民間不動産開発も再び活況を呈することが予想され、住民の反対が強い「外かく環状道路」の未整備区間もこの機会に再開するなど、首都圏の大規模建設事業が2020年までに目白押しとなる可能性がある。

 招致決定後、建設分野の業界紙は、内需誘発効果が高く、建設産業への好影響になるとの期待を大きく報じた。

 これに対し、辻村さんは次のように指摘する。

 「建設投資が一極に集中すると、既に不足している技術・技能労働者の不足が一層顕著になり、労務・資材価格も高騰するだろう。価格高騰は発注時の積算と施工時との間でタイムラグがあるため、現場で資材を調達し、労働者を雇い入れる中小下請け業者が損失を被ることになる。そして最大の問題は重層的な下請け構造にある。公共工事や民間建設投資が減少した十数年間で、元請け受注業者が激しい低価格競争のしわ寄せを下請け業者にかぶせたため、重層的下請け構造を一層深化させた。東京五輪に向けて建設投資が急増しても、施工に携わる末端の業者が対応できるのか、工事の品質や工期などさまざまな問題が生じる可能性がある」

▲今は東北に集中すべき

 さらに、日本社会にとっての重大問題がある。それは震災復興への影響だ。

 「建設業者は労務費の高い東京に集中する。臨海部で開催される五輪に向けた事業には、熟練技能が必要で、技能労働者は東京に一極集中する。そうなると、被災地はどうなるだろうか。タイミングが悪すぎる。今は東北の被災地の復旧・復興に集中しなければならない時なのに」と辻村さんはまゆをひそめる。

 建設業就業者数は、97年の685万人から、15%減の517万人(09年)。特に、建設業の将来を不安視する若手の減少が著しい。震災の復旧工事では、労務単価の低い岩手などでは、隣の宮城と比べて人が集まりにくい事態も既に起きている。

 また、被災地以外への影響も懸念される。安倍首相が昨年、総選挙前に打ち上げた老朽インフラの補修がそれだ。地方の建設業者が東京に引っ張られれば、当然あおりを受けることになってしまう。

▲過去の失政を繰り返すな

 五輪開催は、疲れた日本経済への強すぎるカンフル剤という感が否めない。それでも、テレビは、明るい話題にすがる町の人々の声と、大騒ぎするメダリストたちばかりを映し出す。

 「90年代、『景気対策』を名目に630兆円を投資し、東京湾岸アクアラインや本州四国連絡橋を建設したが、ああいう事業の再来になるのではないだろうか。大手は確かに利益を上げたが、地域の建設業者には仕事が回らず、地域経済は疲へいし、『空白の20年』と呼ばれる事態につながっている」。辻村さんは少し前の自民党政治の失政と重ねる。

 復興の足かせになる、日本経済の再生に役に立たない、中小建設業の経営改善に効果ないでは、どうにも仕方がない。そして何よりも、福島第一原発の汚染水対策の追加費用が470億円なのに、五輪スタジアム建設が1338億円(その後最大3000億円かかるとも報じられている)とは、どう考えても力点の置き方がおかしい。

 つらいことから敢えて目をそらそうとするかのような東京五輪騒ぎ。その陰で新たなひずみが生じようとしていることを見つめ直す時ではないだろうか。
 

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